実話映画「愛なき森で叫べ」のあらすじと映画解説【北九州監禁殺人事件】

映画「愛なき森で叫べ」は残虐な内容を含む映画です。

この記事にはネタバレを含みます。

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あらすじ

世間では警官の拳銃を奪った殺人犯が射殺事件を繰り返しています。

東京へ出てきたシンは偶然出会ったジェイとフカミ、そして妙子と一緒に映画を撮ることになります。

女性経験のないシンに妙子は高校の同級生の美津子を紹介します。美津子は友人のエイコが交通事故で死んでからというもの引きこもりでした。

ある日美津子に村田という男から電話が入ります。村田は昔借りた50円を返したいと美津子に会いに行き、美津子はあっという間に村田に夢中になります。

美津子の後をつけていたジェイたちでしたが、妙子が村田を見て彼が詐欺師だと指摘します。

村田はその昔妙子の姉に結婚詐欺を仕掛けていたのでした。

ジェイたちは村田を観察して彼に関する詐欺師の映画を撮ることを決めます。

しかし、村田は巧みな話術と嘘、そして通電という暴力で美津子だけでなくジェイたちを逆に支配していきます。

いつしか村田を中心に映画を作り出す一行でしたが、暴力的なやり方を続ける村田にまずはフカミがグループから抜けます。

続いてジェイも「辞めたい」と言い出すと村田は美津子にジェイを殺させ、死体をバラバラに解体させます。

美津子のやったことをネタに村田は美津子の父と母を脅し、妹のアミもその支配下に置いていきます。

拷問・虐待・暴力・酒・詐欺・映画撮影の連続だったある日美津子は村田がアミとできてることを知り、逆上します。

それに怒った村田は美津子と両親に一晩中通電をしますが、それにより美津子が流産し病院に運び込まれます。

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結末ラスト

退院した美津子を迎えに行った村田ですが、ピクニックと偽って森の中で美津子を殺そうとします。

しかし、そこで美津子からはじめから村田の正体に気づいたことを告白されます。

それだけでなく、美津子はシンが実は連続射殺犯であることも言い当てました。

彼女は自分を処女だと偽っていたり、村田たちと行動を一緒にすることで自分の周りの人間を崩壊させようとしたのでした。

シンは美津子、アミを射殺し、村田も殺そうとしますが隙を見て村田は逃げ出します。

仕方なく乗ってきた車で帰るシンですが、途中で車の壊れた女性を拾います。

シンが運転していると昔死んだはずのエイコにそっくりな女性を見かけて森の中へ入っていきました。シンは車を止めその子を追って森に入っていきます。

命からがら逃げだした村田は道へ出て、これまたエイコに似た人間の運転する車に乗り込むのでした。

元となった事件

まずこの作品を深く知る上で欠かせないのがこの映画の元となった事件です。

本作のはじめに「この作品は実話に着想を得た物語です」とあります。

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その実話とは「北九州監禁殺人事件」のことです。

(以下Wikipediaの内容を要約しています)

北九州監禁殺人事件とは

2002年(平成14年)3月に北九州市小倉北区で発覚した監禁、殺人事件です。

その内容があまりにも残虐で非道なものだったため当時報道自粛もあり、世間にあまり内容が知られていない事件です。

詐欺師の松永太が拷問と監禁、そして相手の弱みを握ることによって、ある家族や友人たちをマインドコントロール下において殺し合いや死体処理をさせた事件です。

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S/D:https://matome.naver.jp/odai/2135181593658354201

事件詳細

幼いころから弁が立ち、嘘がうまい松永は詐欺や恐喝、押し売りなど違法な方法でお金を稼いでいました。

小心者でしたが弱いものへは恫喝などしていた松永は暴力的で配偶者に定期的に暴力を振るっていました。

松永の内縁の妻である緒方純子はDVにより完全に松永の言うことを何でも聞く奴隷になっており、自分の家族もお金のために松永に売る始末でした。

松永のマインドコントロールの方法はDVだけでなく、相手の弱みを握ることでした。例えば緒方の母親には「静かなことろで相談したいことがある」と言葉巧みにラブホテルへ連れ込み肉体関係を持ち、裸の写真を撮り、それをネタに意のままに操っていたとされています。

なお、松永は緒方の母親だけなく、妹とも肉体関係を持っていたとされています。

マインドコントロール下に置いた相手に対し、松永は暴行の共犯者にします。

例えば緒方の母親を緒方自身に殺させたり、死体処理させることで罪悪感を植え付けていったと言います。

結果的に松永は自身が手を汚すことなく、マインドコントロールした家族同士で殺し合いをさせ、6人死亡、1人傷害致死、あげくのはてに家族同士で死体の処理までさせたと言います。

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通電

映画中でもたびたび出てくる通電という言葉。

これは松永が暴力を振るう際によく使った手で、むき出しにした電源コードの電線をクリップにつなげ人間の身体に電気を通すというものでした。

お手製のスタンガンのようなものですが、その電力は協力で、意識が一瞬飛び、皮膚が焼けただれるレベルの強さだったと言います。

特に男女関係なく性器への通電は頻繁に行われていたそうです。

また、通電時には松永より理由を言い渡され、松永だけでなく、松永に命令を受けた家族同士で通電を行い、監禁されている者同士の不信感を募らせていきました。その結果被害者が時には加害者になっていき、より松永の支配から逃れられなくなったのでした。

マインドコントロール

監禁場所はマンションなどの通常の居住地だったため、監禁は主にマインドコントロールによるものが大きかったようです。

それは通電含む虐待やDVだけでなく、互いに暴力を振るわせることで被害者が加害者側に加担する(少なくてもそう錯覚させる)ことになるのでした。

また、前述したとおり、松永は相手の弱みを握り、それをネタにコントロール下に置いていきました。

また松永は緒方の家族に序列を作り、不満や不平を言う人間の序列を下げ、通電の対象になっていました。いつしか緒方の家族は互いに序列を上げることに執着していくのでした。

また、松永は緒方の家族にルールを課し、食事、衣服、睡眠、会話、排泄などあらゆるものを制限し、時に松永の許可を受けなければそれができないようなときもありました。それを破ると通電になりました。

裁判・判決

松永は当然のように死刑に、そして、緒方については無期懲役になりました。

被害者でもあり、加害者でもある緒方について、裁判官は以下のように述べたそうです。

「死刑の選択も十分考えなければならないが、異常な虐待を長期間繰り返し加えられ、指示に従わないことが難しい心理状態の下でXに追従して犯行に加担した点や、捜査段階での自白が真相解明につながった点も、極刑に処するほかないとは断定しがたい」

ラスト結末の解釈

おそらく多くの人がラストでシンと村田が出会ったエイコ(ロミオ)に戸惑ったことでしょう。

特にこれについて作中で解説がないので、私なりの解釈を書いていきたいと思います。

真の黒幕は誰か

作中、基本的に集団をリードしているのは村田です。彼は巧みな話術で美津子に近づきましたが、後半様相が変わってきます。

それはマインドコントロール下にあったはずの美津子が「自分は一度も村田を愛していなかった」「村田が詐欺師だとわかっていた」「シンが殺人者であるとわかっていた」などまるで一連の結果を想定していたかのようなことを言いだします。

状況を掌握していたのは村田だけでなく美津子も同様だったのです。

美津子の企み

美津子はなぜ村田の詐欺に乗った(フリをした)のでしょうか。

それは過去エイコ(ロミオ)を失った彼女が自殺を考えたにも関わらず、復讐したかった相手がいたからです。

それを整理すると以下のようになります。

妙子…エイコ(ロミオ)と影で愛し合っていて美津子にとって一番死んでほしい相手だった

父親…対面ばかり気にして、自分には理不尽に厳しい、その反面過去に浮気経験があるなど偽善的な部分もある

母親…自分に必要以上に厳しく過保護、父親から自分を守ってくれない。一方で父親の浮気から一転して優しくなるなど一貫性が無い人間性

アミ…自分と違い自由奔放、一方で自分をとても嫌っていて敵対心を持っている

美津子はこれらの人間を文字通り「地獄に落としたい」と思っていました。

そのため村田の策略に乗ったフリをして彼らを全滅させた+自分も自殺したかった(殺させた)のです。

では美津子が真の黒幕か?

Noです。

美津子は単なる”かわいそうな女の子”であり、彼女は大それたことができる器ではありません。美津子の行動の裏には必ずエイコ(ロミオ)がいました。

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美津子を操っていたのは

美津子の背後には必ずエイコ(ロミオ)がいました。

シェイクスピアのロミオとジュリエットでは、ロミオはジュリエットが死んだと勘違いして自殺し、ジュリエットはロミオが死んだのを知り自分も死を選びます。

今回ジュリエットである美津子はロミオの死後、すぐには死にませんでした。

彼女は自分とロミオの邪魔をした人間を皆殺しにしてから死のうと思ったのです。

ただ、それは決して彼女の意思ではありませんでした。

思い出してください。

ロミオが死んで美津子や妙子が屋上で睡眠薬を飲んで死のうとした時です。

美津子(ジュリエット)はロミオの死を悲しんで、睡眠薬を飲んだ後屋上に立ち、自分も死のうと思いましたが、結局最後彼女を止めたのは金網の向こうで呼び止めたエイコ(ロミオ)でした。

このエイコ(ロミオ)をどう表現していいかわかりませんが、これは美津子の幻影というよりは、死神や悪霊というほうが正しい気がしています。

全ては人外の悪霊による鬼畜の所業

実際の裁判でも北九州監禁殺人事件は「鬼畜の所業」と表現されましたが、まさにそのとおり、悪霊と化したエイコによる呪いのようなものに思えます。

つまり、ラストで出てきたエイコは悪霊であり、関わった全ての人を不幸にします。

車を降りて森へ向かっていったシンもおそらく生きては帰れないでしょう。

村田はエイコに似た女性に行き場所を聞くと「Go to hell(地獄へいく)」と言い残しており、間違いなく村田の命運も尽きているでしょう。

最後に

園子温監督の考えていてことはわかりませんが、ラストの考察は私独自の感じたことです。

悲しい事件が起きるとまるで「悪魔が犯人に舞い降りたのでは?」と思うことがありませんか?実は凄惨な事件の裏には人間の理解を越えた力があるかもしれませんね。

それくらい北九州監禁殺人事件は衝撃的な事件ですので、興味ある方はぜひご自身でWikipediaで調べてみてください。

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